先に結論から言うと、現実的には存在しません。しかし、実質的には存在すると考えています。
その仕組みはこうです。
1.タバコの正体
タバコに含まれているニコチンには中毒性があります。一度体内に入り込むと、時間の計画と共に体内のニコチン成分が枯渇していき、脳にニコチンを補充するよう促します。その結果、イライラや集中力の散漫といった症状が起きます。そして、脳が欲しているニコチンをタバコを通して与えてあげることによって、枯渇していたニコチンは補充され、さもリラックスを得たかのような錯覚を覚えるのです。それが、タバコを吸った時「美味しい」と感じる正体なのです。
僕も昔はタバコを吸っていました。しかし、この事実を知った時、タバコに自身の意思を掌握されている事を認識し、奴隷状態から解放されたいと思った訳です。そこで、出てきたのが、次に吸うタバコ一本は900万円するといった考え方でした。当時の禁煙セラピー本に書かれていた考え方なのですが、僕には非常に効果的でした。お陰で、タバコを辞める宣言をしてからこの方、一吸いもすることなく辞めることに成功しました。
2.なぜ900万円?
上述したように、タバコに含まれているニコチンには中毒性があります。そして、それは常にスパイラルしているかのように連鎖しているのです。ならば、その連鎖を断ち切る事ができれば、中毒状態から抜け出すことができるのです。その為には、ニコチンが体内から完全に抜けきる期間、3週間だけ耐えれば良いのでした。よって、次に吸うタバコは、一生中毒状態にあることを承諾するのか、もしくは完全に辞めことを選ぶかの二つしかない判断なのです。それが「1本900万円するタバコ」なのです。
なぜ900万円するのか考えてみましょう。
日本で喫煙が認められている20歳から、男性の平均寿命である約80歳まで毎日1箱ずつ吸うとします。
現在のタバコは410円、年間365箱、期間にして60年。
410×365×60=8,979,000円
よって、一生中毒状態にあることを承諾する選択=次の一本を吸う行為は900万円するのです。僕は常に900万円とタバコ1本を天秤にかけることによって、一吸もせずに辞めることをできたのです。
3.行動に影響を及ばすアンカリング
ニコチンの中毒性は、最初の一本が非常に重要であり、逆にいうと最初の一吸さえなければわざわざ噎せてまで体に悪い行為を自らすることもありません。しかし、この世の中には往々にして最初の一つの行動が全体に、更には長きに渡って行動に影響を及ばすことがあるのです。しかも、無意識のうちに。
それが、行動経済学で知られているアンカリングです。
アンカリング(英: Anchoring)とは、認知バイアスの一種であり、判断する際に特定の特徴や情報の断片をあまりにも重視する傾向を意味する。係留または英: Focalism(焦点化)とも。
個人の通常の意思決定においては、まず特定の情報や値に過度に注目し、その後状況における他の要素を考慮して調整する。一般にこのような意思決定には、最初に注目した値についてのバイアスが存在する。
例えば、中古車を買おうと探している人がいるとする。彼は走行距離と年式に注目し、それを中古車選びの判断基準にしていて、エンジンやトランスミッションの保守状況の良否をあまり考慮しない。これがアンカリングである。
(参照:Wikipedia)
生まれたてのヒナが、最初に目にした動く物体を母親と認識するのは有名な話。人間にもそのように、最初に知った情報を判断基準として考える潜在意識が存在するのです。
買い物をするとき、レストランへ行くとき、家を借りるとき、車を買うとき…。船が停泊する際、海底に下ろす錨(アンカー)のように、我々の潜在意識に最初の行動が根強く残り、その後の行動にも影響を与え続けるのです。
日々何気なく行っている行為が、果たして本当に自身が欲して行っている行為なのか、それとも無意識のうちにアンカリングされた判断による行動なのか。
ニコチンの連鎖を断ち切るように、日々の悪い習慣は断ち切り、良い習慣にアンカーを下ろしたいと思うしだいです。
(本エントリーは「予想どおりに不合理」を参照しております。更に詳細を知りたい方は著書をご覧になって下さい。
http://www.amazon.co.jp/予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」-ダン-アリエリー/dp/4152089792)
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