将棋を嗜む方であればおわかりかと思いますが、将棋の一手には数ある選択肢のなかから選択した戦略的な意図があります。名人の羽生さんであれば、数十手先まで読んでいることでしょう。
そんな将棋の戦術に捨て駒というものがあります。
数十手先の狙いを実現するために、強固な砦に穴をあけるために、戦略的に相手に駒を取らせるのです。裏をとるってやつです。
これが成功すると、最初は苦しい局面に立たされたかのように思われますが、とあるタイミングで形成逆転のキラーパンチが入り一気に相手の陣内を崩壊することができるようになるのです。プロの世界でも周囲の人間皆がミスだと思っていた一手が、実はとんでもない戦略的な一手で、皆をアッと言わせる事もあるそうです。
ビジネスにおいても「捨て駒」に似た戦略があります。
それが、クリスアンダーソン著「フリー」で主張された「フリーミアム戦略」です。
Google、クックパット、DeNA、Facebookなどが展開するサービスは今や誰もが知っていて、一度は利用したことがあるのではないでしょうか?上記の企業に共通して言えることは、消費者はタダで使えるのに、企業自体は高い売上高を誇っている点です。
GoogleのクックCEOが謳う最大化戦略は、情報市場における分配の限界費用はゼロなので、インターネット広告の収益を増やすために、無料でサービスを展開し、とにかくユーザー数を増やすというものです。
他にも、DeNAが展開するモバゲーは多くのゲームをコンシューマーに提供していますが、そのほとんどは無料で遊ぶことが出来、ゲーム内で利用するアイテム等を買うために少額課金を促すモデルを軸に、今ではグループ全体で1、500億円の売上に至るまで成長しました。
このように、現代のビジネス界では、まずはタダでサービスを提供したり、一部の有料ユーザーのみの収益源で稼いだり、あるいは広告主などの第三者からお金をいただくモデルが当たり前になりつつあります。(将来的には世の中にある全てのサービスが無料で提供されるようになると言われることも・・。)
消費者にとっては素晴らしい世の中のように感じますが、ビジネスを興そうと思う側からするとメリット・デメリット両方ありそうです。
まず、メリットは色んなサービスを無料で活用することができるため、各産業の参入障壁が下がり、ビジネスを興しやすくなります。
一方でデメリットは、世の中のあらゆるサービスの無料化が進むと、今までその領域でビジネスをしていたモデルが崩れていく危険性があります。特には、情報の非対称性を強みとしてきた隙間産業は間違いなく変革を迫られます。
また常に新規参入の脅威に苛まれ、激しいシェア(ユーザーの奪い合い)争いが起こります。
現に、数年前まで一世を風靡していた日系のSNSサイトからFacebookやTwitterに移行したユーザーは多いことでしょう。
要は、盤石なプラットフォーマーにならない限りは、栄枯盛衰を繰り返す事になるのです。
だからこそ、将来のプラットフォーマーを目標とした戦略を策定する必要性があるのです。
既に定石化した捨て駒を打っていては、手の内が相手にバレているためうまくいきません。
現代の社会でこれから100億、1、000億円のビジネスを目指すならば、羽生さんのように周囲をアッと驚かすような「捨て駒」を打たなければなりませんね。
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